HEPATOBILIARY PANCREAS GROUP

消化器外科

肝胆膵グループ

診療科の診療方針

<診療科の診療方針>

外科学肝胆膵部門は、肝胆膵外科高度技能指導医の2名と肝胆膵外科高度技能医1名を含め、後述のスタッフで学生教育や研修医の指導、日常診療を行っています。担当する疾患は原発性肝がん、転移性肝がん、膵がん、胆管がん、胆嚢がん、十二指腸乳頭部がんなどの悪性疾患から脾機能亢進症、胆石、慢性膵炎、肝嚢胞などの良性疾患、そして肝不全や肝がん治療に対する肝移植と多岐に渡ります。当科では、三次元統合画像などを利用しながら、個々の症例で肝胆膵外科領域の複雑な解剖を正確に把握し、症例に応じて“がんの根治性”と“手術の安全性”のバランスをとりながら適切な手術方法を選択し、提供することを第一に心がけています。

手術実績

肝切除手術実績

当科では1973年に第一例目の肝切除を行い、その後徐々に症例数を増やしてきました。肝細胞がん、胆管細胞がん、転移性肝がんなど様々な疾患に対して2020年までに約3000例の肝切除を行い、その安全性も年々担保されてきました。2011年から2020年までの症例の在院死亡率は0.08%と全国平均より低い水準で推移しています。

当科における肝切除数と在院死亡率の推移と疾患の内訳

当科における肝切除数と在院死亡率の推移と疾患の内訳

過去10年間に切除した初発肝細胞がん症例の肝切除成績

2011年から2020年までに肝細胞がんの診断で肝切除を行なった症例の5年生存率は72%、10年生存率は56%でした。がんの進行度別の5年生存率はStage I: 96%, Stage II: 81%, Stage III: 67%, Stage IVA: 54%でした。当科の症例は、Stage IVA(脈管侵襲のある進行がん)症例も多く含まれており、年代別に調査すると徐々にStage IVA症例の予後も良くなってきています。特定の症例に対して集学的治療を組み合わせることで予後が改善してきたものと考えています。詳細に関しては「進行肝細胞がんに対する当科のこころみ」を参照ください。

  • 肝細胞がん症例全体の生存率

    肝細胞がん症例全体の生存率(肝切除症例)

  • 肝細胞がん進行度別の生存率

    肝細胞がん進行度別の生存率(肝切除症例)

転移性肝がんに対する肝切除

消化器系のがんをはじめとして様々ながんは肝臓に転移することが多くみられます。従来は肝臓に転移があると病状の末期として、姑息的な抗がん剤治療や対症療法にとどまっていましたが、最近では肝臓への転移があったとしても、その他の臓器への転移があるとは限らず、原発がんの種類によっては肝転移に対する切除が著しく生命予後を改善することが判ってきました。特に、大腸がんや神経内分泌腫瘍などの肝転移に対しては、治療ガイドラインで切除可能であれば切除することが推奨されています。

また、最近の抗がん剤や薬物治療の進歩は、切除を含む集学的治療により進行した肝転移例でも良好な成績が得られるようになっています。さらに、切除方法も、従来は切除が不可能であった肝臓全体に多数のがんが広がっているような例でも、門脈塞栓術や二期的肝切除などにより安全な切除が可能となっています。

両葉多発大腸がん肝転移に対する二期的肝切除

当科では一見すると切除は出来ないようにも見える大腸がん肝転移に対しても三次元統合画像を利用して詳細に手術前計画を行い、積極的に肝切除を行なっています。肝臓全体に多発する肝転移でも症例によっては、手術を2回に分けて行うことで切除が可能となります。このような切除の方法を二期的肝切除と呼びます。

両葉多発大腸がん肝転移に対する二期的肝切除

術前に撮影したCTを利用して3次元統合画像を作成します。緑色で表しているのが大腸がんの肝転移です。肝臓全体に20個以上の転移が広がっています。

両葉多発大腸がん肝転移に対する二期的肝切除

すべての腫瘍を1回で切除すると肝不全となる危険性があるため、2回の手術に分けてすべての腫瘍を切除します。1回目の手術で4カ所の部分切除と右門脈塞栓(残す予定の肝臓を大きくするための処置)を行い、数週間の期間を開けて2回目の手術を行います。2回目の手術は肝右葉切除と部分切除を組み合わせてすべての腫瘍を切除する事ができました。このように、肝細胞がんだけでなく進行した状態の転移性肝がんに対しても積極的に肝切除を行なっています。

胆道、膵疾患

過去10年の当院における胆道・膵領域の主な疾患別切除症例数をお示しします。胆道がんは、胆管がん(肝門部・遠位)、胆嚢がん、十二指腸乳頭部がんに分類されます。一般的に胆道・膵臓の手術は難しいと言われています。
その理由としては、腹部の最も複雑な部位であること、早期発見が困難であること、病変部位や広がりのわずかな違いによって手術方法が変わってくる、などが挙げられます。当院では膵切除・胆道再建を伴う大肝切除などの胆膵領域の手術を年間40~60例ほど行っております。

胆道・膵臓領域の悪性腫瘍発生部位

胆道・膵臓領域の悪性腫瘍発生部位

  • 部位別の手術症例数

    部位別の手術症例数

  • 胆道・膵臓領域の術式別症例数

    胆道・膵臓領域の術式別症例数

膵がん

膵がんの手術は主に膵頭十二指腸切除術(膵頭部に腫瘍がある場合に、十二指腸・胆管・胆嚢を含めて膵頭部を切除)、尾側膵切除術(膵尾部側に腫瘍がある場合、膵臓の体尾部および膵臓に付着する脾臓を切除)があります。膵がんは他の消化器がんの中で最も悪性度が高く、周囲臓器へ進展していることが多いため、外科的切除には高度な技術が必要とされます。「膵がん診療ガイドライン」では膵頭十二指腸切除術を年間20例以上施行しているhigh volume centerで治療を受けることを推奨しており、当院では、毎年この基準を満たしています。
膵がんは、「切除可能(stage 0~Ⅱ)」「切除可能境界(stage Ⅱ~Ⅲ)」「切除不能(stage Ⅲ~Ⅳ)」に分類されます。膵がんの治療は手術と化学療法(抗がん剤)を組み合わせることが重要です。近年、切除可能な膵がんに対しても術前に化学療法を行うことで術後の再発抑制や生存率が良くなることが分かってきました。当院では患者さんの状態やご希望、手術方法も考慮しつつ、切除可能症例、切除可能境界症例に対しては術前化学療法を行った後に手術を行うことを標準治療としております。一方、切除不能な膵がんでも、近年の化学療法の進歩により、抗がん剤が著効し、切除可能な状態となり手術を行う症例も経験するようになってきました。

  • 当科における膵がん手術症例全体の予後

    当科における膵がん手術症例全体の予後

  • 当科における膵がん進行度別の予後

    当科における膵がん進行度別の予後

肝門部領域胆管がん

胆管がんは手術が唯一の根治が期待できる治療法です。肝門部領域胆管がんは、肝臓側の胆管へ広がりやすいため、肝臓及び肝外胆管をふくむ広範囲な切除が必要です。がんの拡がりや周囲の血管との位置関係を詳細に把握し、手術の方法を細かく検討します。残肝容量が不十分な症例は門脈塞栓術(切除予定である肝臓の血管を詰める事により残りの肝臓を大きくする)を行い術後肝不全を防ぎつつ、高度進行例に対しても血管合併切除・再建を含む拡大手術も積極的に行うことで、過不足のない切除を目指します。

当科における肝門部領域胆管がんの予後

当科における肝門部領域胆管がんの予後

遠位胆管がん

胆管の中央部や下部に発生した遠位胆管がんに対しては、下部胆管が膵臓と連続しているため、胆管とともに膵頭部と十二指腸を切除する手術(膵頭十二指腸切除術)が必要となることがほとんどです。

  • 当科における遠位胆管がんの予後
  • 当科における遠位胆管がんの予後

当科における遠位胆管がんの予後

胆嚢がん

胆嚢がんは症状に乏しく、進行した状態で見つかることも多いがんです。当教室では綿密な術前診断を行い、肝臓・胆膵領域の専門外科医チームによる根治を目指した適切な手術を行っています。当科で切除した胆嚢がん全体の5年生存率は44%でした。がんの進行度別の5年生存率はStage I:82.8%、Stage II:61.8%、Stage IIIA:29.5%、Stage IIIB:17.1%、Stage IVB:2.9%でした。

当科における胆嚢がんの予後

当科における胆嚢がんの予後

十二指腸乳頭部がん

十二指腸乳頭部がんは胆管および膵管が十二指腸に開口する十二指腸乳頭部に発生するがんで黄疸や膵炎で発見される事があります。手術は膵頭十二指腸切除術が必要で、当教室では豊富な臨床経験に基づき、根治的な治療を積極的に行っています。当科の十二指腸乳頭部がん手術例全体の5年生存率は70%です。進行度別の5年生存率はStage I:82.6%、Stage IB:56.8%、Stage IIA:43.6%、Stage IIB:34.4%、Stage IV:0%でした。

当科における十二指腸乳頭部がんの予後

当科における十二指腸乳頭部がんの予後

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