TREATMENT

消化器外科

<当院における腹腔鏡下肝切除の症例数>

肝臓は右肋骨の奥に位置している大きな実質臓器で、流入血管として門脈・肝動脈、流出路として肝静脈・胆管があります。肝切除にあたっては腹部に大きな切開を必要とし、出血量が多く解剖学的に複雑なため、手術は長時間(6〜7時間)に及ぶことがあります。当科では2005年より開腹手術に準じた腹腔鏡補助下肝切除を開始し、2022年1月現在、443例の腹腔鏡下肝切除を施行してきました。(図1)その後385例で完全腹腔鏡下肝切除に移行しています。現在まで254例の腹腔鏡下肝部分・外側区域切除、131例の高難度手術とされる腹腔鏡下亜区域・区域・葉切除を施行してきました。

腹腔鏡下肝切除の手術症例数推移

図1:腹腔鏡下肝切除の手術症例数推移

<腹腔鏡下肝切除の安全性>

腹腔鏡下肝切除にまず求められるものは安全性です。すべての患者さんが腹腔鏡下に手術できるわけではなく、腫瘍が肝門部の主要脈管や下大静脈、肝静脈根部に近接する場合、腫瘍径が5〜8cm以上ある場合、胆管再建が必要な患者さんは開腹下に肝切除を行います。予後は腹腔鏡下と開腹下を比較した多くの報告では同等であるとされています。悪性腫瘍に対する肝切除では、患者さんの肝機能、腫瘍条件で、まず手術術式を決定しています。その手術術式が腹腔鏡下に安全に施行することが困難と判断した場合は、開腹下に手術をしています。当科での腹腔鏡下(補助下)肝切除の手術死亡率は0人/374人(0%)です。

<腹腔鏡下肝切除を行う利点>

傷が小さく低侵襲な手術

開腹肝切除では正中部から右肋弓下に30〜40cmの切開を必要としますが、腹腔鏡下肝切除の切開は1cm〜5mmで、5箇所もしくは6箇所の穴で手術を行い、切除した肝臓を摘出する最小限の切開創で手術が終了します(図2)。傷の痛みが少なく、目立たないことは大きな利点ですが、ほかに体にかかる手術中の負担が少ないこともあり、体力の低下した方や80歳以上の高齢の患者さんでも当科では腹腔鏡下肝切除を安全に行なっています。

開腹肝切除と腹腔鏡下肝切除の傷の比較

図2:開腹肝切除と腹腔鏡下肝切除の傷の比較

気腹圧により出血量が減少

腹腔鏡下肝切除では視野を維持するために二酸化炭素で腹部全体を膨らませて肝臓を切除します(気腹)。気腹により腹腔内に持続的に圧がかかった状態になり、肝切除中の出血が少なくなります。当科での肝切除出血量は開腹に比較して大幅に低減しており、手術中に輸血を要した患者さんは5人/314人中(1.5%)でした。

拡大視効果で合併症が少ない

肝切除後に難渋する(時間を要する)合併症として術後胆汁漏があります。当科での開腹肝切除の胆汁漏は約5%ですが、腹腔鏡下肝切除においては3人/314人中(0.9%)で、単純に比較はできませんが腹腔鏡下肝切除が安全に施行できていると考えます。腹腔鏡下肝切除はモニター下で手術を施行しますが、腹腔鏡による拡大視効果(大きく詳細に見える)により、安全に微細な血管や胆管を処理できることが合併症の低減に寄与している可能性があります。腹腔鏡下肝切除の安全性の評価に、開腹移行率があります。開腹移行とは、腹腔鏡下肝切除施行中に何らかの原因で、開腹手術に移行することです。当科では、①出血②長時間手術③前回手術による癒着高度の要因などで5人/314人中(1.5%)で腹腔鏡補助下への移行がありましたが、術後問題なく軽快退院されています。当院での腹腔鏡下と開腹下肝切除の術後平均在院日数の比較では8日と14日でした。

<当院の肝がん治療と腹腔鏡下肝切除>

肝がん治療においては①肝切除②ラジオ波焼灼療法③カテーテル治療④分子標的薬があります。当院では消化器内科と週一回のカンファランスを行い、肝がん患者さんの適切な治療を討議し診療にあたっています。最近では治療の選択がラジオ波、カテーテル治療しかないと考えられていた患者さんが、腹腔鏡下肝切除で対応できる場合も増加しています。

当科では適切に患者さんを選択し、安全に腹腔鏡下肝切除を行なっています。腹腔鏡下肝切除の成績は、外科医の手術経験と技術に影響されます。現在高難度肝切除(亜区域・区域・葉切除)に対する腹腔鏡下肝切除は、施設によっては行なっていないところもあります。肝がん治療で治療法の選択に悩まれる時、腹腔鏡下肝切除が可能かどうか知りたい時など、当院肝がんセンター外来にご相談ください。https://www.hosp.kurume-u.ac.jp/medical/liver_cancer/

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